ラグビーと聞くと「あのボールを持って走ってるやつね」というイメージを持っている方もいると思います。もちろんそれは間違いではありません。しかし実はラグビーにもボールを蹴るシーンはたくさんあります。
今のラグビーで得点を取るというと「トライ」が大きな得点源です。ラグビーをあまり知らない方でも、ボールを持った選手が走ってダイビングしながらボールを地面につけるシーンを見たことがあると思います。
しかし、実は昔のラグビーではトライでは点数を得ることはできませんでした。ではトライとは何だったのかと言えば……妨害をされずにゴールへキックする権利を得るために行うものでした。すなわちキックに挑戦(トライ)することができたというわけです。そしてそのゴールによって点を得ることができたのです。
この歴史からもわかるように、キックというのはラグビーにおいて今も昔もとても大切なプレーです。今回はそんなラグビーのキックについて様々なパターンを紹介します。
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得点になるキック:ゴールキック
ラグビーのキックには、ゴールを狙い得点に直結するキックプレーとそうではないものがあります。まずは得点を得られるキックを見ていきましょう。
コンバージョンキック
ラグビーではトライをすると5点が得られます。しかしトライ後はそれだけではなく、ゴールにキックをする権利を得られ、このときに行われるのがコンバージョンキックです。
2015年のワールドカップの際、独自のルーティンで一躍時の人となった五郎丸歩選手があのルーティンを見せるのがコンバージョンキックの時でした。
このゴールを決めることで2点が追加できるので、競っている試合ではとても重要になります。
コンバージョンキックは、トライをした地点の延長戦上で蹴るというルールがあります。延長線上であれば距離は自由に選択できます。そのため、トライをするときに余裕がある場合は、ゴールポストの真ん中付近にトライする事が多いです。これにより、キッカーはゴールポスト正面でキックをできるので、非常にやりやすくなります。
反対に、タッチライン(サイドライン)ぎりぎりのスペースにトライをした場合は、キッカーにとっては角度のついた難しいキックになります。キッカーの腕の見せ所というわけですね。
ちなみに、コンバージョンキックを行うときに、コートの外からボールを固定する器具が渡されることがありますが、これはキックティーと呼ばれるものです。キックティーを使用するなどしてボールを固定してから行うキックを「プレースキック」といいます。
コンバージョンキックは、プレースキックで狙う選手がほとんどですが、ルール上は次の項目でご紹介するドロップキックの方式をとってもかまいません。
ドロップキック
ドロップキックは、ボールを地面に落とし、跳ね上がってきたボールを蹴るプレーです。
試合の流れの中で行なわれることの多いキックで、ボールを持った選手がドロップキックでゴールを狙うことが許されています。これが「ドロップゴール」と呼ばれるもので、ゴール内に入れば3点が加算されます。
ご存じの通りラグビーボールの形状は楕円のため、落としたボールが思いも寄らぬ方向にはねてしまうこともあります。試合の中でドロップゴールを決めるのは技術が必要です。
ペナルティキック
レフェリーによってペナルティが告げられた後に行われるキックです。反則をしなかった側が蹴ることができます。得られる得点は3点です。
ペナルティーキックの権利が与えられた場合でも、ゴールを狙わずにプレーをリスタートさせることもできますし、スクラムを選択することもできます。
必ずしもペナルティキックでゴールを狙わずともよいのですが、競っている試合の後半などではペナルティキックの3点追加というのは実に大きな得点になるので、よく見られます。
ラグビーでは試合中に監督はスタンドの決まったエリアにおり、基本的にどんなプレーをするのかはグランド上の選手にゆだねられます。つまり選手たちは時間や得点差を考えて、ペナルティ後にどのようなプレーを選ぶか、その選択をしなければなりません。
2015年の南アフリカ戦で、最後のペナルティをもらったとき、日本はペナルティゴールを決めて同点で終わるか、トライを取って逆転するかという局面にたたされました。
当時の監督であるエディ・ジョーンズ氏は、ゴールを狙うように指示をしました(※1)が、選手たちが選んだのはスクラムでした。それを見た監督は無線のヘッドホンを投げつけて怒りを露わにしていましたが、あくまでもペナルティから何をするかというのは、選手の選択が大事になってくるという一例です。
※1
試合中のラグビーの指示は無線でスタッフとやりとりします。主に水分補給のボトルを運ぶウォーターボーイが監督の指示を受けて、選手にそれを伝えます。もちろん給水は自由にできるわけではないので、いつでも監督からの指示を伝えられるわけではありません。細かい指示はハーフタイム中に伝える以外はありません。
得点に直結しないキック
ここからはラグビーのキックの中でも、それ自体で得点を得るというわけではない、簡単に言うとゴールを狙うわけではないキックをご紹介します。このようなシチュエーションの際は、ドロップキックとは反対にボールがバウンドする前の浮いた状態を蹴る「パントキック」によってボールを蹴らなくてはなりません。
万が一、ボールを上手く蹴ることができず、地面にバウンドしてしまった場合はノックオン(ボールを前に落としてしまった)ペナルティになります。
ショートパント
接近してくる敵をかわすために蹴られることの多い、短いキックのことです。相手の身長を越える高さに蹴り上げます。
この動画でニュージランド代表の選手が行うキックがショートパントです。ポーンと敵の頭上を越すキックを蹴って、自ら走ってキャッチ、そのままトライへ!実に華麗ですね!!
また、敵をかわすだけではなく、味方にパスをするためにショートパントを蹴ることもあります。
ハイパント
ハイパントはその名の通り、高くボールを蹴り上げることです。飛距離を出さずに高く蹴る場合もあれば、飛距離も意識して蹴られる場合もあります。これは状況によりけりです。滞空時間の長いハイパントを蹴ることによって、自陣の立て直しをする時間を稼ぐこともあります。
また、時には敵味方でボールを競り合う「コンテストキック」にもなりえます。巨体のラグビー選手たちがボールを掴むために飛び跳ねる空中戦は、ラグビーの見どころの1つでもありますよ。
グラバーキック
グラバーキックはハイパントなどとは反対に、地面にコロコロと転がすようなキックです。ディフェンスラインの後ろにスペースがあるなというときに蹴られることが多いです。グラバーキックで転がったボールを味方がしっかり追ってキャッチしてくれると成功ですが、これもコンテストキックになることが多く、敵味方の入り混じった競り合いに発展することもあります。
タッチキック
タッチキックは、ボールをタッチライン(サイドのライン)の外へ出すためのキックです。タッチキックに関しては、蹴った地点やボールがバウンドしたか否か等によって「ダイレクトタッチ」と呼ばれるものになったりします。
このあたりは細かく説明すると「キック」の話だけでは終わらないので、今回は、ボールをタッチラインの外へ出すために蹴るキックが「タッチキック」であるという紹介だけにとどめますね!
まとめ:キックを知ればラグビーをもっと楽しめる!
ここまでラグビーのキックの種類をご紹介してきました。さまざまな種類があるのでまとめておくと
- 得点になるキックとならないキックがある
- コンバージョンキック:2点
- ドロップゴール:3点
- ペナルティキック:3点
- ショートパントは前方へのパスのように使用できる
- ハイパントやグラバーキックでは競り合いになることがある
五郎丸選手の活躍もあって、日本ではコンバージョンキックに対する注目が高まりましたが、ラグビーにはたくさんのキックの種類があります。またキックは戦術的に蹴られるものなので、キックに注目することでラグビーの戦術というのも徐々に理解できるようになると思いますよ。
2019年の日本代表はキックを使用したプレーが多くなっています。ぜひキックに注目してラグビーを楽しんでみてくださいね!